成年後見制度の活用事例

成年後見制度の活用事例を紹介します。
人の人生は千差万別であり,必ずしもうまくいく場合ばかりではありませんが,事例を通して成年後見制度の具体的なイメージを持っていただければと思います。

Yさん
独身で一人暮らしをしていたが,認知症が進み自宅は散らかり放題に。自宅で脱水症状で倒れているのが発見され,入院。遠方に住む親族の申立により,成年後見人が選任されたケース。


(後見人の対応)

  • 施設入所の必要が生じたが,預貯金が少なく施設費が支払えないため,生活保護の受給申請を行ったが,自宅を所有していたため却下。
  • 自宅が汚物や腐敗した生ごみなどで散らかっていたため,低コストで片づけられる業者を探し,自宅を清掃。
  • 家庭裁判所の許可を得て自宅を売却。
  • 自宅売却資金を活用して特別養護老人ホームへ入所。

(結果)
介護と医療の連携のある施設で安心して生活できるようになった。


Sさん
独身で一人暮らし。高齢になり親も兄弟姉妹もみな死亡,頼れる親族は甥のみ。認知症が進み一人暮らしが難しくなってきたが,これまでの親族関係がうまくいっておらず,甥には老後の関わりを拒否されてしまった。
市町村長の申立により,成年後見人が選任されたケース。


(後見人の対応)

  • 年金収入が少ないが,まとまった預金がある。
  • 月々の収支は施設費により大幅な赤字であるが,本人は現在の施設を気に入っており,できるだけ長く同じ生活を継続することを希望。
  • 本人の意思を尊重し,できる限り希望を叶えるため,家庭裁判所の許可を得て空家となっているマンションを売却し,施設費用を確保。
  • 定期的に見守り、適宜必要な介護サービスを追加するなど。

(結果)
親族に関わりを拒否された場合であっても,希望する生活空間で見守りや介護サービスを受けられる環境を整えることができた。


Tさん
若い頃に統合失調症を発症し,長期の入院生活。仕事が続かなかったため蓄えがない。両親の死亡により支援が受けられなくなり,生活保護の受給が開始。
遠方に住む親族の申立てにより、保佐人が選任された。


(保佐人の対応)

  • 未整理であった親の遺産の相続手続を行い,承継財産により生活保護費を償還。
  • 障害年金を適切な等級へ変更する手続を行い、収入を増加,毎月の収支を黒字化。

(結果)
遺産の整理,生活保護費の償還などを行い,収支が健全化。入院費などを支払っても少しずつ蓄えができるようになり,安定して生活が送れるようになった。


Mさん
配偶者に先立たれ,子はなく,アパートで一人暮らしをしていた。脳梗塞により準植物状態になり長期入院生活が開始したが,親族とは疎遠のため関わりを拒否された。医療費が長期間未払のままであり,アパートの賃料の管理などもできていない。
親族の申立により,後見人が選任された。


(後見人の対応)

  • 預金の調査・管理を行い,医療費などの未払金を清算。
  • 自宅に保管されていた亡配偶者の遺骨を,菩提寺にて永代供養。
  • 医療費・施設費に充てるため,帰来可能性のない自宅アパートの賃貸借契約を解除し,未払家賃を清算。

(結果)
関わってくれる親族がいない方であっても,後見人が医療や福祉関係者と連携して,生活環境の整備,財産関係を整理することができた。


Tさん
先天的な知的障がいのある方。父親が成年後見人として在宅で本人を支援してきたが,本人の高齢化に伴い両親とも亡くなり,第三者による支援が必要になった(いわゆる「障がい者の親亡き後」の問題)。
成年後見人の後任者として専門職が選任された。


(後見人の対応)

  • 障害年金などの給付の管理。
  • 未受給であった給付金の請求を行い,収入を増加。
  • 在宅から施設への入所契約。
  • 支援者と協議・連絡を密にし,入院手続や車椅子の購入など,本人に必要な支援を模索しながら継続。

(結果)
障がいのある方の親亡き後も,成年後見人が医療や福祉と連携することで,必要な支援を継続できた。




成年後見終了後…

成年後見制度は本人が死亡すると終了します。
しかし,相続人がいなかったり,相続人全員が相続放棄をした場合には,財産の管理者がいない状態に陥ることがあります。

そのような場合は,家庭裁判所に相続財産清算人選任の申立を行い、相続財産清算人を選任することで,最後まで財産の整理を行うことができます。

当事務所ではこのような事案も受任しています。

Sさん
独身で一人暮らし。成年後見制度を利用し,後見人の支援を受けながらの闘病生活の末死亡。相続人が不存在であったため,その後の自宅(空家)などの管理が問題に。
元後見人の申立てにより,相続財産清算人が選任された。


(相続財産清算人の対応)

  • 遺産の調査により,生前に未処理であった亡兄の預金を発見し,相続手続を行った。
  • 空家となっていた自宅の買手を探し,家庭裁判所の許可を得て売却。
  • 医療費や公共料金等の未払金を清算。
  • 残余財産を国庫へ納付。

(結果)
相続人が不存在の場合でも,残された財産が放置されることなく整理することができた。