成年後見人等ができないこと

成年後見人等であってもすることができないことの例として,次のようなものがあります。

本人に対する医療行為の同意

本人に対して医療行為(手術や胃カメラ検査など)を行う際に,病院側から同意書の記載を求められる場面があります。
これについては,第三者が同意できるものではないと考えられており,たとえ成年後見人等であっても,本人のために医療行為の同意を行うことはできない,という考え方で整理されています。
とはいえ,実際問題,急いで医療行為を行う必要がある場面において,同意書を提出しなければ病院側が対応してくれないケースもあり,非常に悩ましい問題と言えます。

本人の保証人,連帯保証人になること

本人の施設費や家賃,入院費等の支払につき,成年後見人等が保証人・連帯保証人になるべきではないとされています。
保証人等は,本人に代わって支払いを行った場合,本人に対し求償権(お金の請求権)を取得し利害対立の関係となります。
本人と成年後見人等が利害関係に立つことが想定されるような場面を積極的に作り出すべきではない,という考え方によるものです。

本人の婚姻・離婚や養子縁組・離縁

婚姻や離婚,養子縁組や離縁といった行為は,本人のみが行うことができることとされ,第三者の同意や代理になじまないと考えられています。

居所の指定

成年後見人等には,居所指定権がないとされています。
例え成年後見人等が施設入所契約の代理権を有していたとしても,本人の意思を考慮せずに,無理矢理に入所先を決定することは問題があると思われます。
どこに居住するかについては人生の重要な要素と考えられており,成年後見人等には,できる限り本人の意思をくみ取りながら居所を決定していくプロセスを大切にすることが求められています。

居住用不動産の処分

成年後見人等が,本人の居住用の建物又は敷地について,売却・賃貸借の解除等の処分を行う場合は,家庭裁判所の許可が必要とされています。
居住用の不動産には,現在は施設入所により居住していなくても,仮に退所した場合に帰る見込みのある不動産を含みます。
建物の取壊しなどの事実行為については,成年後見人等が取壊業者に依頼する法律行為を処分行為ととらえ,許可が必要と解されています。

本人と成年後見人等の利益が相反すること

成年後見人等と本人との間で,一方が得をすると他方が損をするような行為を利益相反行為といいます。
成年後見人等が利益相反行為を行う必要が生じた場合は,本人のために特別代理人等(特別代理人,臨時保佐人,臨時補助人)を選任する必要があります。
ただし,後見監督人等が選任されている場合は,利益相反行為の場面においては後見監督人等が本人を代理するため,特別代理人等の選任は必要ありません。

同意行為目録,代理行為目録に記載のないもの(保佐・補助のみ)

保佐の場合は,代理行為目録に記載のある行為のみ,保佐人が代理で行うことができます。
補助の場合は,同意行為目録に記載のある行為のみ同意することができ,代理行為目録に記載のある行為のみ代理することができます。
例えば,代理行為目録に「預貯金の管理」と記載されていないのであれば,保佐人や補助人であっても,本人のために預貯金の管理を行うことはできません。

相続税対策のみを目的とした財産の贈与や借入など

例え成年後見人等の権限内の行為であったとしても,その目的が本人の利益ではなく専ら推定相続人らの利益(相続税の軽減など)のみを目的とする場合は,成年後見人等はそのような行為を行うべきではありません。
仮に家庭裁判所に無断で行い,後から不適切だと判断された場合,原状回復を求められたり,解任されてしまうこともありえますので注意が必要です。